授業で書いたけどせっかくだからうp。「しあわせの理由」要約

『しあわせの理由』サマリー
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2009年02月17日(Tue)
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授業で書いたけどせっかくだからうp。「しあわせの理由」要約

書名:『しあわせの理由』
著者名:グレッグ・イーガン
出版社:早川書房
2003年7月31日 初版
ISBN:4-15-011451-X

 グレッグ・イーガンによる、日本語訳された2つめの短編集。イーガンは、科学によって形作られるあるルールをもうけ、それを軸に展開する話を書くことが多い。その上で、ギミックの面白さ、テーマの興味深さ、話の展開の巧みさ全てを評価されている作家。この短編集に入っている作品も、全てイーガンらしい面白さに充ち満ちている。
 イーガンの面白さというのは、具体的に単語で表されるタイプのものではなく、ある統一された雰囲気の様なものと言える。この短編集も、全体としてアイデンティティというテーマを持っているとは言われるものの、収録作品全てが同じテーマというわけではない。だが、1冊の本として、何かしらまとまった雰囲気を持っている。細かく話を解説するわけではないが、その雰囲気が伝わればと思う。

・適切な愛
 夫が列車事故で致命傷を負う。もう体はぼろぼろで使い物にならない。だがしかし、現在の科学力をもってすれば、新しい体を用意することで夫は助かるという。それに喜ぶ主人公だったが、条件が1つあると聞かされる。「新しい体のできるまで、自分の子宮で、夫の脳を2年間保存すること。」
 そんな狂気じみた提案が、社会的には法律の淡々とした手続きによって肯定されているという事実。そして主人公はその狂気を、理性でもって乗り越えようと決意し、手術を受け入れる。
 果たして主人公は、理性でもって、狂気と本能を押さえつけるのだが、その先に待つのは理性のうちに存在していた狂気であった。

・闇の中へ
 町の中心に原因不明の"特異点"が発生する事件が多発するようになっている世界。その周辺に発生するワームホールに取り残された人々を救う救急隊員が主人公。救助というのは、ワームホール内では特殊な法則によって自由な身動きが妨げられるためだ。その中では、常に"出口方向"への運動しか許されない。
 さらにワームホールにはもう一つルールがある。出口はある確率に従って消滅し、中にいた人はそこに取り残される。高まる消滅率に追われながら救助を急ぐ主人公。死が確率で与えられるときに、他者の命はその確率と天秤にかけられるものなのか。そもそも確率で命が失われる恐怖とはいかなるものなのか。

・愛撫
 通報を受けて捜査していた主人公は、怪しげな家の地下室でキメラを見つける。キメラというのは人間と豹をくっつけて作られた怪物で、首から上が豹になっている女性だった。捜査を続けるうちに、ある絵画にヒントを見つける。事件を追ううちに、キメラを生み出した張本人に近づくのだが・・・
 ドラッグによって思考を強化する主人公。豹であり人間であるキメラ。そして黒幕。アイデンティティが3人をつなぐキーワードではあるものの、そこに焦点がしぼられているわけではなく、ミステリーやサスペンス色の強い短編。タイトルの意味は、終わり方は、主人公の変化は。分かりづらいところも大きいが、読後感はやはりイーガンらしい作品。

・道徳的ウイルス学者
 筋金入りの童貞をこじらせたマッドサイエンティストが、世にはびこる貞操観念の低い奴らを痛い目にあわせようと画策する話。あらすじについては、それ以上語る言葉を持たない。落ちもまたすばらしく、滑稽さにおいて比類無き出来である。この作品を読んで笑える程度には、純粋さを失うべきだと思う。
 また、この作品は疑似科学のパロディーとしての側面も持っている。主人公は、自分の作り出したオリジナルの理論に心酔するし、ダーウィンの進化論を否定して見せたりもする。そういった疑似科学の信奉者を笑い飛ばす作品でもある。

・移相夢
 脳を、有機体からコンピュータへと移し替える事が可能になっている未来。主人公は、その移し替えを決意し、そのサービスを行っている会社へと赴く。そこで、移相夢という存在について聞かされる。移相夢とは、データの移し替えのまさにそのときに、移し替えの最中のデータが脳の一部分を再現してしまうことによって引き起こされる、夢のような物だという。移相夢を巡る主人公の思考。価値観。コピーが完了した後に、移相夢を思い返すことはあるのか。移相夢を見ている存在とは一体何なのか。「脳が意識を持つとはどういうことか」「意識とは何なのか」というテーマの切り口として、考えさせられることの多い、また、強い印象の残る世にも奇妙な物語。

・チェルノブイリの聖母
 SFというよりはミステリな作品。探偵である主人公は、ある実業家から小さなイコン(聖画像)を探し出して欲しいと言われる。18世紀にウクライナで描かれたというその聖母マリア像を追うのだが、追えば追うほど謎は深まるばかり。あり得ないほどの高値がついていたり、そもそも盗まれる事自体がおかしいような代物のはずだ。捜査方法に多少SFなガジェットはあったが、基本的にこの作品はミステリである。クライマックスにおいて、依頼主がこのイコンを欲しがる理由は、過去に依頼主本人に降りかかったある事件が原因であると知れる。過去に縛られる男にまつわる話。

・ボーダー・ガード
 イーガン節炸裂と言われる作品。遠い未来、宇宙に拡散した人類は、遠大な寿命を手にしていた。この話には2つの大きな軸があり、まず1つめは量子サッカー。量子力学の知識があるとないとでは理解しやすさに差が出るのだが、ボールがフィールド全体に確率で偏在する波動であるとし、ゴールの中に存在する確率をある程度高めたら点が入るというルール。量子サッカーを見るだけでも十分におもしろい。
 もう1つが、主人公が量子サッカーをを通じて出会う女性の話。ずば抜けて量子サッカーのうまい彼女について、しかし誰も正体を知らない。彼女のもつ秘密とは何なのか。超科学を手にしたことで変化したもの、変化しなかったものについて考えさせられる。

・血を分けた姉妹
 一卵性双生児というのは、全く同じDNAをもっている。だからといって同じ人生を歩むわけでは当然無いし、同じ時に死ぬのでもない。だがしかし、もし世界中に、DNAを区別して感染するウイルスが蔓延したとしたら?そのとき私たち双子はいったいどんな事態に陥るのだろうか?
 さらにこの作品はもう一つ大きな問題提起をする。科学はどこまで人道的であるべきだろうか。そして科学の非人道な面にたいして主人公はどんな行動をとるのか。

・しあわせの理由
 表題作。少年時代に、脳に出来た腫瘍によって、幸福感をもたらす脳内物質がだだもれになってしまう。常にどんなときでも幸福で前向きな状態で居続ける事になってしまっていたのだが、このままでは腫瘍のせいで成人するまで生きていられないかもしれない事が発覚する。そこで手術によって腫瘍を取り除くのだが、副作用によって今度は逆に幸福をもたらす脳の機能が全て停止してしまう。苦痛のみしか感じられない人生に疲れ果てるのだが、ある解決策によって希望を見つける。
 感情とは、人格とは。表題作になるだけあって、テーマ性の強い作品。